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神戸地方裁判所 昭和60年(ワ)1882号 判決 1994年7月19日

原告

株式会社山地屋

被告

西濃運輸株式会社

主文

一  原告の被告西濃運輸株式会社に対する主位的・予備的請求を、いずれも棄却する。

二1  被告高松市場運送株式会社、同篠原光男は、原告に対し、各自金一億三〇六七万七五八五円及びこれに対する昭和六〇年五月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告の右被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告西濃運輸株式会社間の分は、全部原告の、原告と被告高松市場運送株式会社、同篠原光男間の分は、これを一〇分し、その七を原告の、その三を右被告らの各負担とする。

補助参加により生じた訴訟費用は、全部原告の負担とする。

四  この判決の主文第二項1は、原告が被告高松市場運送株式会社、同篠原光男に対しそれぞれ金三〇〇〇万円の担保を供するときは、その被告に対して、仮に執行することができる。

事実及び理由

以下、「被告西濃運輸株式会社」を「被告会社西濃」と、「被告高松市場運送株式会社」を「被告会社高松市場」と、「被告篠原光男」を「被告篠原」と、各略称する。

第一請求

一  主位的請求

被告らは、原告に対し、各自金四億五九六一万二六九一円及びこれに対する昭和六〇年五月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

被告会社西濃は、原告に対し、金四億五九六一万二六九一円及びこれに対する昭和六〇年五月三一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告と被告会社西濃間関係

(一) 原告は、呉服・洋服の販売を目的とする株式会社であり、被告会社西濃は、物品運送等を目的とする株式会社である。

(二)(1) 原告と被告会社西濃とは、昭和六〇年五月二五日、次の内容の運送契約(以下、本件運送契約という。)を締結した。

(イ) 運送品 四〇〇個のケースに梱包された商品(以下、本件商品という。)

(ロ) 到達地 愛媛県松山市

(ハ) 到達日 同年五月三〇日

(ニ) 受取人 原告

(ホ) 運送代金 金一八万円

(2) 原告は、同月二八日、本件商品を被告会社西濃へ引渡した。

(三)(1) 被告会社高松市場が、最終的に本件商品の運送に当たつたところ、被告篠原は、当時、同会社に自動車運転手として雇用され、同会社の業務として本件商品を搭載した被告車を運転し、同商品を運送中、別紙事故目録記載の交通事故(ただし、事故の態様を除く。)を惹起した。

(2) 被告篠原は、本件事故直前、同人が吸つていた煙草を被告車運転席下に落としたことに気を取られ、自車前方を注視しなかつた過失により同事故を惹起した。

(四) 本件商品は、本件事故により焼失した。

2  原告と被告会社高松市場・被告篠原間関係

(一) 被告会社高松市場は、物品運送等を目的とする株式会社であり、被告篠原は、本件事故当時、同会社に被用され、同会社の自動車運転手であつた。

(二) 原告と被告会社西濃間の関係(三)(1)(ただし、事故の態様を含む。)(2)、(四)と同じ。

二  争点

1  本件商品の具体的内容

2  被告らの本件責任原因

(一) 原告

(1) 主位的主張(被告らの不法行為責任)

(イ) 被告会社西濃関係

(a) 被告篠原が本件事故当時被告会社高松市場の従業員(自動車運転手)であつたことは、前記のとおりであるが、同人は、本件商品の運送につき、被告会社西濃の実質的な指揮・監督下にあつた。

すなわち、被告篠原は、昭和六〇年五月二八日午前一一時頃被告会社西濃錦糸町支店に赴き、同支店担当者から、運送物品の内容・積込み時間・到着時間等の指示を受け、同人の指示どおりしばらく待機した後、同人の誘導により積込場所まで出向した。

そして、被告篠原は、同日午後七時頃、右積込場所において被告会社西濃の送り状を受取り、右担当者の指示の下本件運送を開始した。

(b) 右事実関係に基づくと、被告会社西濃は、民法七一五条一項に則り、原告に対し、本件損害賠償責任を負うべきである。

(ロ) 被告会社高松市場・被告篠原関係

被告会社高松市場と被告篠原との関係、被告篠原の過失による本件事故の発生等は、前記当事者間に争いのないところである。

よつて、被告会社高松市場は民法七一五条一項に、被告篠原は同法七〇九条に、それぞれ則り、原告に対し、本件損害賠償責任を負うべきである。

(2) 予備的主張(被告会社西濃の債務不履行責任)

原告と被告会社西濃との間に本件運送契約が成立していたところ、同商品は、本件事故により運送途上で焼失してしまつた。

よつて、被告会社西濃は、原告に対し、本件運送契約の債務不履行による損害賠償責任を負つている。

(二) 被告ら

(1) 被告会社西濃

(イ) 不法行為責任

原告の右主張事実中被告篠原が昭和六〇年五月二八日午後七時頃本件商品を搭載した被告車を運転し被告会社西濃錦糸町支店を出発したことは認めるが、その余の主張事実及び主張は全て争う。

被告篠原は、右当時、被告会社高松市場の被用者であり、被告会社西濃の被用者でもなければ同会社が選任した運転手でもない。

しかも、被告会社高松市場も、被告会社西濃とは別個独立の運送会社であり、同会社が被告会社高松市場に対し実質的な指揮監督する関係にない。

本件商品は、被告会社西濃を第一運送人として、被告会社西濃補助参加人株式会社(ただし、当時は有限会社組織。)錦江運輸、同株式会社江栄(以下では、右二社について、補助参加人との表記を省略する。)、天野運輸株式会社、高知通運株式会社、被告会社高松市場へと順次運送依頼及びその引受けがなされて運送されたものである。

右各会社の本件商品の運送関与は、同各会社の自由独立した契約によつて順次決定されたものであり、各運送人は、各自対等の地位を有し、したがつて、独自の立場で当該運送を引受けるか否かの自由を有し、その取引上において上下の関係はない。

しかも、被告会社高松市場への本件運送依頼は、全くの偶然かつ単発の依頼であつた。

いずれの観点よりしても、被告会社西濃と被告篠原との間には、民法七一五条一項所定の使用関係が存在しない。

(ロ) 債務不履行責任

原告の右主張事実は認める。

(2) 被告会社高松市場・被告篠原

不法行為責任

原告の右主張事実は認める。

3  被告らの本件免責事由の存否

(一) 被告ら

(1) 被告会社西濃

(イ) 本件商品は、商法五七八条所定の高価品に該当する。

すなわち、本件商品の価格は、被告車一台で金四億六〇〇〇万円にも及んでいる。

通常トラツク一台分の商品価格が金一億円を超えることは希れであり、まして金五億円近い商品であるならば、それをもつて通常品であるなどとは、運送常識上考えられないところである。

そして、右商品中に安価品が含まれていたとしても、それは、当該商品全体を高価品と認めるについて、何ら妨げとなるものでない。

また、鉄道運輸規定によれば、動物を除いて、一荷造ごとに容器荷造を加えて一キログラムの価格が金四万円を超える物を高価品としている(同規定二八条一項三号)し、自動車運送事業に用いられる標準貨物運送約款によると、一キログラムの価格が金二万円を超える貨物を高価品としている(同約款九条一項三号、二項)。

これを本件商品について検討すると、本件商品は四〇〇個のケースに梱包されていたのであるから、一ケースの価格は金一一五万円となる。

被告車の本件事故当時における積載重量は約一〇トンであつたから、右一ケースの平均重量は約二五キログラムである。そうすると、本件商品の一キログラム当たりの平均価格は金四万六〇〇〇円となる。

したがつて、右標準貨物運送約款によれば勿論のこと、右鉄道運輸規定によつても、本件商品が前記高価品に該当することは明らかである。

仮に、原告が本件商品を所謂バーゲン商品として売却する目的を有していたとしても、宝石や貴金属についてもバーゲンということがあり得る故、原告の同目的によつて本件商品が非高価品、すなわち普通品になることはないというべきである。

(ロ) 本件商品は前記法条所定の高価品であつたが、被告会社西濃は、本件運送契約締結時までは勿論、同商品の運送開始時までに、原告から同商品の種類及び価額の明告を全く受けていない。

(ハ) よつて、被告会社西濃は、前記法条に則り、原告の主張する本件債務不履行責任を免れるというべきである。

(ニ)(a) 原告の、被告会社西濃が本件運送契約締結に際し本件商品の内容及び数量を十分了知していた旨の主張事実は、全て否認。

(b) 原告の、原告と被告会社西濃間における標準貨物運送約款適用排除の合意に関する主張事実は、全て否認。

(c) 原告の、商法五八一条に関する主張中被告篠原の過失が重過失であるとの点を否認し、その主張は争う。

(2) 被告会社高松市場・被告篠原

(イ) 本件商品が高価品であること、原告が本件商品の種類及び価額の明告をしなかつたことは、次のとおり除外補足するほか、被告会社西濃の主張と同じである。

(a) 被告会社西濃の右主張中、鉄道運輸規定に関する主張を除く。

(b) 右会社の右援用する主張を次のとおり補足する。

(Ⅰ) 原告と被告会社西濃は、普通貨物運送約款によつて本件運送契約を締結したものと推定されるところ、同被告会社は、本件商品を自ら運送せず、その実行行為を株式会社錦江運輸等の第三者に委託してなさしめたものであるが、本件の如く最終の運送受託者である被告会社高松市場と運送委託者との運送契約においても、同運送約款によつて契約されたものと推定すべきである。

(Ⅱ) 右普通貨物運送約款(昭和四八年二月二一日運輸省告示第六三号)によれば、高価品とは、貨幣・紙幣・株券その他有価証券、貴金属、美術品等のほかに「容器及び荷造に加え一キログラム当たりの価額が二万円を超える貨物(動物を除く)」とあり、平成二年一二月一日から適用されることとされた標準貨物自動車運送約款(運輸省告示第五七五号)において、一キログラム当たりの価額が金二万円を超える貨物は高価品である旨が確認されている。

しかして、本件商品は、総じて約八トンないし九トンと見込まれ、これを仮に原告主張の本件焼失商品及び代替品等の価額合計金四億六三八三万円とすると、一キログラム当たりの価額は金五万一五三六円ないし金五万七九八七円となり、右運送約款の二・五七倍ないし二・八九倍に当たる高価品となる。

(ロ) 商法五七八条は、被告会社高松市場・同篠原の本件不法行為による損害賠償責任についても適用ないし類推適用されるべきものである。

すなわち、本件運送契約成立後における本件商品の運送経緯は被告会社西濃が主張するところと同一である。

しかして、同運送経緯からすると、荷送人である原告から直接同商品の運送に当たつた被告会社高松市場・同篠原に対する本件不法行為責任を追求するについては、原告と被告会社西濃ないし被告会社高松市場・同篠原を一体とみなし、つまり、原告と被告会社西濃ないし被告会社高松市場・同篠原との間に実質的な契約関係の存在を是認し、債務不履行による損害賠償請求権と不法行為による損害賠償請求権が競合する場合と同様に取扱うべきである。

そして、右請求権競合の場合と同様に取扱うべきであるとすると、商法五七九条は、当該不法行為責任にも準用ないし類推適用されるべきである。

蓋し、右法条を債務不履行の場合のみの責任免除規定と限定してしまうと、同条が機能する場面はなく、同条を設けた趣旨が没却されてしまうからである。

したがつて、右法条の要件の具備した本件においては、被告会社高松市場・同篠原の本件不法行為による損害賠償責任も、同法条により免責される。

(ハ) 原告の、原告と被告会社西濃間における標準貨物運送約款適用排除の合意に関する主張事実は、全て争う。

(二) 原告

(1) 被告会社西濃の主張に対する反論

(イ) 本件商品が商法五七八条所定の高価品に該当する旨の主張事実及び主張は全て争う。

本件商品中に多少高金額の物が存在したが、これをもつて直ちに右主張の高価品に該当するとはいえない。

元々、原告は、呉服、洋服等の販売を目的とする株式会社であるが、その取引商品は、所謂質流れ品、あるいは金融品である。

原告は、右質流れ品や金融品を扱うせり市場から通常の仕入価格より安価で仕入れ、市場の半値以下の価額で一般消費者に販売するのである。

すなわち、原告が取扱う商品は、いずれも所謂バーゲン商品である。

原告の右業務目的からして、原告は、右法条所定の高価品を取扱つておらず、本件商品も、右取扱い商品の所謂バーゲン商品である。

本件商品中の毛皮商品は、所謂デイスカウント商品であるし、同商品中の呉服類も、一万四七二二点で金二億五一五四万二一五〇円であり、平均単価約金一万七〇〇〇円にしかならず、決して高級あるいは超高級な呉服やコート類に当たらない。

被告会社西濃が主張する鉄道運輸規定は、昭和四五年六月三〇日運輸省令第六〇号により改正されたものであり、同標準貨物運送約款は、昭和四八年二月二一日運輸省告示第六三号により公示されたものであるところ、昭和四五年もしくは昭和四八年当時ならば一キログラムにつき金四万円又は金二万円を超える品物を高価品と評価し得たかも知れない。

しかしながら、右規定及び右約款は、その後何ら改正されておらず、本件事故発生時である昭和六〇年までの約一五年間における著しい物価の高騰を考慮すれば、右規定及び右約款における条項が、昭和六〇年当時の一般物価に比べて甚だ不当であることは明白である。

(ロ) 標準貨物運送約款については、原告と被告会社西濃間において、昭和四五年頃、同被告会社が原告依頼の商品の運送延着事故を惹起した折、将来の商品運送につき同運送約款の適用を排除する旨の合意をした。

すなわち、被告会社西濃は、右延着事故の賠償として、原告に対し、原告が同被告会社に依頼する将来の商品運送につき、運賃の一割を減額する旨約定した。

したがつて、本件商品が高価品である旨の主張を右運送約款をもつて根拠付けることはできない。

(ハ) 仮に、本件商品が被告会社西濃の主張する高価品に該当し、原告のこの点に関する明告がなかつたとしても、原告と同会社との取引は二〇数年にわたつており、同会社は、原告がいかなる商品を取扱つているかを十分に了知しており、したがつて、同会社は、本件商品が高価品であり、同商品の運送に必要な注意を怠つた場合における損害額を了知していたものである。

よつて、被告会社西濃は、本件損害賠償責任を免れることができない。

(ニ) 被告篠原の本件過失は重過失であつたから、商法五八一条により、被告会社西濃は本件損害賠償責任を免れ得ない。

(2) 被告会社高松市場・被告篠原の主張に対する反論

(イ) 被告らの、本件商品が高価品に該当し、このことは普通貨物運送約款によつても根拠付けられる。原告が本件商品の種類及び価格の明告をしなかつた旨の各主張については、被告会社西濃の同一主張に対する反論と同じである。

(ロ) 商法五七八条は、運送契約上の債務不履行責任にのみ関するものであつて、運送人の不法行為責任については適用がない。

蓋し、運送人に対する運送契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権とは、法律要件を異にする別個の請求権で、請求権競合の関係に立つからである。

よつて、被告らのこの点に関する主張は、理由がない。

4  本件損害賠償額

5  過失相殺の成否

(一) 被告ら

(1) 被告会社西濃の主張

仮に、被告会社西濃が原告において主張する本件損害賠償責任を負うとしても、本件損害の発生拡大には、原告の次の内容の過失も寄与しているから、原告の同過失は、その損害額の算定に当たり斟酌されるべきである。

(イ) 原告は、右被告会社に対し、本件商品が高価品であることの明告をしなかつた。

(ロ) 原告は、本件商品の運送につき相当額の損害保険契約をなし、巨大な損害の発生を未然に防止すべきであつたし、容易にこれをなし得たにもかかわらず、これをなさなかつた。

(2) 被告会社高松市場・被告篠原の主張

仮に、被告会社高松市場・同篠原が本件不法行為責任を負うとしても、本件損害の発生拡大には、原告の過失も寄与しているから、原告の同過失は、その損害額の算定に当たり斟酌されるべきである。

しかして、原告の右過失の内容は、被告会社西濃の主張と同じであるから、これを引用する。

(二) 原告

被告らの主張事実及び主張は全て争う。

第三争点に対する判断

一  本件商品の具体的内容

証拠(甲二一、二二の1、2、原告代表者本人。)によれば、本件商品の具体的内容は、別紙目録一、二記載のとおりであつたことが認められる。

二  原告の被告会社西濃に対する本訴請求

1  主位的請求(不法行為関係)

(一) 本件事故の態様

証拠(甲六ないし一〇、一五、被告篠原本人、弁論の全趣旨。)によれば、本件事故現場は、片側二車線の名神高速道路下り線路上であるところ、被告車は、本件事故直前、時速約一〇〇キロメートルの速度で同道路下り線の走行車線内を東方から西方へ向け走行していたが、同事故現場において、同車両の左前部を前方を走行していた普通乗用自動車の右後部に追突させたこと、被告車は、同追突の後、右前方に逸走して同道路中央分離帯に乗り上げ、そのガードレールに衝突して更にこれを突き破つて暴走し、同道路上り線の走行車線と路肩をふさぐ形で横転したこと、同車両は、同横転後、炎上したことが認められる。

(二) 被告会社西濃と被告篠原間における使用関係(民法七一五条一項所定)の存否

(1) 被告篠原の本件事故当時における直接的雇用関係、同人が本件商品を搭載した被告車を運転中本件事故を惹起したこと、同人が昭和六〇年五月二八日午後七時頃同車両を運転して被告会社西濃錦糸町支店を出発したことは、当事者間に争いがない。

(2) ところで、原告は、被告会社西濃と被告篠原との間に本件事故当時実質的な指揮監督関係が存在した旨主張し、同主張の当否が本件争点の一つとなつている。

そこで、以下、右争点について判断する。

(イ) 民法七一五条一項所定の使用関係、すなわち、使用者被用者の関係の有無は、両者間における実質的指揮監督関係の存否によつてこれを決するのが相当であり、しかも、同使用者が同法条項による責任を負うためには、同被用者に対し同指揮監督関係が及んでいる場合に、同人の加害行為がなされたことを要すると解するのが相当である(最高裁昭和三七年一二月一四日第二小法廷判決民集第一六巻第一二号二三六八頁、同昭和四二年一一月九日第一小法廷判決民集第二一巻第九号二三三六頁参照。)。

しかして、原告の前記主張内容も、右説示にそうものと解される。

(ロ) 本件において、証拠(甲一、乙二四、証人松本雅典、同澤永勝行、被告篠原本人、弁論の全趣旨。)によれば、被告篠原が昭和六〇年五月二八日午後六時三〇分頃東京都台東区内所在松阪屋上野店において被告車に本件商品の積み込みを始め同日午後七時頃同積み込みを完了したこと、同積み込みの時間・場所等は、当時被告会社西濃錦糸町支店営業主任澤永勝行(以下、澤永営業主任という。)の指図によつて行われたこと、原告従業員で営業販売部門を担当していた松本雅典は、同積み込み完了後、被告会社西濃の下請会社岩瀬運輸の従業員(以下、岩瀬運輸従業員という。)から受取つた伝票(甲一)に必要事項を記入(ただし、当時、衣類との記載はなかつた。)し、これを同従業員に手渡したこと、被告篠原は、同伝票を同従業員から受取り、その受取者欄に、「高松市場・篠原」と記入したこと、同人は、同従業員から同伝票の複写を受取つたことが認められる。

しかしながら、原告の前記主張内容に即して認められる事実関係は、右認定各事実の範囲のみであり、同範囲を超え、原告の同主張内容を確定するに足りる的確な証拠はない。

(ハ) かえつて、証拠(甲一八、証人澤永勝行、同中俣三郎、被告篠原本人、弁論の全趣旨。)によれば、被告会社西濃は、原告と本件運送契約を締結した後、株式会社錦江運輸へ本件商品の運送依頼をし、以後、株式会社錦江運輸から株式会社江栄へ、同会社から天野運輸株式会社へ、同会社から高知通運株式会社へ、同会社から被告会社高松市場へ、順次同運送依頼がなされ、同各運送依頼に対する各運送の引受けがなされたこと、同各運送の引受けをした同各会社は、いずれも独立対等の地位を有して本件運送に関与したものであり、各会社間に従属関係は勿論、元請・下請の関係もないこと、被告篠原は、昭和六〇年五月二八日午前一〇時頃、香川県内から東京都内の目的地に到着し、同県内から運搬して来た積荷を降ろしたこと、同人は、同荷降ろし後の同日午前一〇時三〇分頃、被告会社高松市場へ電話で同運送の完了を報告し、次の作業の指示を求めたこと、同人は、その際、同会社担当者から、前記高知通運東京営業所へ連絡するよう指示されたこと、そこで、被告篠原は、高知通運東京営業所へ電話連絡したところ、同営業所担当者から、被告会社西濃錦糸町支店へ行くようにとの指示を受けたこと、前記澤永営業主任は、同日以前に、当時株式会社錦江運輸大森支店長であつた中俣三郎から、本件商品を実際に運送するのは被告会社高松市場の車両である旨の連絡を受けていたこと、被告篠原は、同日午前一一時頃、被告車を運転して被告会社西濃錦糸町支店に到着し、澤永営業主任に対し、本件商品の荷積みに来た旨告げたこと、同人は、被告篠原に対し、同商品の積み込みには時間があるからゆつくり待機して欲しい旨指示したこと、そこで、被告篠原は、同錦糸町支店構内に被告車を駐車させ、同車中で同日午後四時頃まで仮眠したこと、同人は、その後、前記岩瀬運輸従業員が運転する車両に誘導され、被告車を運転し、前記松阪屋上野店に赴き、本件商品の積み込みに当たつたこと、同積み込みの状況は、前記認定のとおりであること、被告篠原は、同積み込みが完了し前記伝票の複写を受領した後、同錦糸町支店には戻らず、同松阪屋上野店から直接本件運送の途に就いたこと、澤永営業主任は、被告篠原が同松阪屋上野店に赴くに際し、同人に対し、気を付けて行くようにと申し述べただけで、それ以外に、例えば運行心得事項書の交付等の運行に関する特別の注意指示を与えなかつたことが認められる。

そして、右認定各事実に照らしても、原告の前記主張内容は、未だこれを肯認するに至らない。

むしろ、右認定各事実を総合すると、被告会社西濃と被告篠原との間には、本件事故当時、前記説示にかかる実質的指揮監督関係は存在しなかつたというのが相当である。

(3) 叙上の認定説示に基づき、被告会社西濃と被告篠原との間には、民法七一五条一項所定の使用関係の存在を認め得ないというべきである。

(三) 結論

原告の被告会社西濃に対する主位的請求は、当事者双方のその余の主張につき判断するまでもなく、前記認定説示により、結局同会社の本件責任原因の存在の点で既に理由がないというべきである。

2  予備的請求(債務不履行関係)

(一) 被告会社西濃の本件帰責事由の存否

(1) 原告と被告会社西濃間に本件運送契約が締結されたこと、本件商品が本件運送中本件事故により焼失したことは、当事者間に争いがなく、本件商品の具体的内容は、前記認定のとおりである。

(2) 被告会社西濃において、本件商品は商法五七八条所定の高価品に該当するところ、原告は本件運送を同会社に委託するに当たりその種類及び価額を明告しなかつた故、同会社は、同法条に基づき本件損害賠償責任を免れる旨主張し、これが本件争点の一つをなしている。

そこで、以下、右争点について判断する。

(イ)(a) 右法条所定の高価品とは、容積または重量の割に著しく高価な物品をいうものと解される(最高裁昭和四五年四月二一日第三小法廷判決例時報五九三号八七頁参照。)。

(b) そこで、これを本件商品(その具体的内容は、前記認定のとおりである。)についてみると、同商品が四〇〇個のケースに梱包されていたことは当事者間に争いがなく、証拠(甲六、七、乙一八、一九、証人松本雅典、同澤永勝行、被告篠原本人、弁論の全趣旨。)によれば、被告車の規模は、長さ一一・九六メートル、幅二・四九メートル、最大積載量一〇、五〇〇キログラムであつたこと、本件商品を収納したケース一個の形状は、縦約五〇センチメートル、横約三〇センチメートル、高さ約三〇センチメートルであつたこと、同ケースの材質は、いわゆるフアイバーであつたこと、同ケース一個の重量は、様々で約五キログラムないし約二五キログラムであり、その総計は、約一〇トンになつたこと、被告車は同ケース全部を搭載したが、同車両荷台の荷物収納庫天井まで約八〇センチメートルの空間があつたこと、被告車が同荷物収納庫全部に荷物を搭載した場合、同搭載商品の価額は、一般に約金二〇〇〇万円から約金三〇〇〇万円であること、被告車に搭載された本件商品の総額は、原告の本件事故後における主張によると、少くとも金二億六一〇六万四三三五円であつたことが認められる。

(c) 右認定説示を総合すると、本件商品は、前記法条所定の高価品に該当すると認めるのが相当である。

右認定説示に反する原告の主張は、当裁判所の採るところでない。

(ロ) 次いで、原告における前記法条所定の明告の有無について判断する。

(a) 証拠(証人松本雅典、同澤永勝行、被告篠原本人、弁論の全趣旨。)によれば、前記澤永営業主任は、昭和六〇年五月二四日前記松本雅典から本件運送契約の締結の申込みを受けたが、澤永営業主任は、その際、松本から、本件商品の内容及び価額について何ら告知されなかつたこと、澤永営業主任は、以後、被告篠原が同商品を被告車に積み込み前記松阪屋上野店を出発するまでの間、松本から、ただ、同商品を濡らさないで欲しい旨要請されたのみで、同商品の内容及び価額について何も告知されなかつた(なお、前記伝票に当時未だ衣類の記入がなかつたことは、前記認定のとおりである。)ことが認められる。

(b) 右認定各事実を総合すると、原告は、被告会社西濃に対し、本件運送契約の成立前から同会社が原告より本件商品の引渡を受けるまでの間、同商品につき前記法条所定の明告をしなかつたと認めるのが相当である。

(ハ) 叙上の認定に基づくと、被告会社西濃は、右法条に基づき、本件運送契約の債務不履行による損害賠償責任を免れるというべきである。

(ニ) 原告は、原告と被告会社西濃間に本件事故当時将来の商品運送につき標準貨物運送約款の適用を排除する旨の合意が成立していたから、本件商品が高価品であることを同運送約款をもつて根拠付け得ない旨主張している。

確かに、証拠(甲二〇、原告代表者本人。)によれば、被告会社西濃が昭和五四年九月二四日原告の依頼商品を運送した際到着が一日遅れたこと、原告と被告会社西濃間で、岡延着事故を機に、昭和五五年四月五日、原告運送依頼品の運賃について、協定約定したこと、その内容は、運賃の一〇パーセント一括割引、その適用範囲、運賃の決定、保管付輸送の経路、運賃及び保管料であることが認められる。

しかしながら、右約定が原告主張のとおり標準貨物運送約款の適用を排除する旨の合意であるとは右認定の右約定内容から直ちに認め得ないし、他に同約定内容が原告の同主張どおりであることを認めさせるに足りる証拠もない。

加えて、原告の右主張を正当とするためには、本件商品が高価品であるとの前記結論が原告の主張する標準貨物運送約款に依拠していることを要するところ、同結論が同運送約款とは無関係に導出されていることは、前記認定説示の経路から明らかである。

よつて、いずれの観点よりしても、原告の右主張は、理由がなく採用できない。

(3)(イ) 原告は、本件商品が前記法条所定の高価品に該当し、原告が同商品につき同法条所定の明告をしていなくても、被告会社西濃において本件運送契約を締結するに際し、本件商品が高価品であることを知つており、その運送において必要な注意を怠つた場合の損害額について予知していた旨主張している。

(a) 確かに、原告が主張する右場合には、運送人において高価品としての損害賠償責任を免れ得ないと解するのが相当である。

蓋し、右場合には、何ら運送人の利益を害することにならないからである。

しかしながら、運送人における右認識の内容は、ただ漠然と当該運送品が高価品であるとの認識を有していたというだけでは足りず、当該運送品の種類及びそのおおよその価額を正確に認識していたことを要すると解するのが相当である。

蓋し、そのように解さなければ、運送人と運送委託者間の法律関係、特に損害賠償責任の存否を巡る法律関係が、運送人の漠然とした内心の認識内容によつて左右され、同法律関係の法的安定性もしくは明確性を欠くことになり不相当だからである。

(b) そこで、これを本件についてみるに、被告会社西濃、現実には前記澤永営業主任が本件商品の種類及びおおよその価額につき右説示にかかる認識を有していたことについては、これを肯認するに足りる的確な証拠がない。

かえつて、証拠(証人澤永勝行、弁論の全趣旨。)によれば、澤永営業主任は、被告篠原が前記松阪屋上野店で本件商品を被告車に搭載して出発するまで、同商品の内容を知らず、ただ価額については、原告の本件運送依頼の内容から、同人のそれまでの経験に基づき、約金二〇〇〇万円から約金三〇〇〇万円であろうと認識していたに過ぎないこと、同人は、被告篠原を前記松阪屋上野店へ先導した前記岩瀬運輸従業員が被告車が出発した後前記錦糸町支店へ戻つて来た時、同従業員が運転して行つた車両中に積み込まれていた原告関係荷物を見て初めて、被告車に搭載した運送品が衣類であろうと推測したことが認められ、右認定各事実に照らしても、原告の前記主張内容は、これを肯認し難い。

よつて、原告の右主張は、理由がなく採用できない。

(ロ) 次いで、原告は、被告篠原の本件過失は重過失であつたから、商法五八一条に則り、被告会社西濃は本件損害賠償責任を免れ得ないと主張している。

確かに、運送人の使用人が重過失により運送品を滅失した場合、当該運送人は、商法五八一条の趣旨から同法五七八条の適用が否定され、同滅失による損害賠償責任を免れ得ないと解される(最高裁昭和五五年三月二五日第三小法廷判決判例時報九六七号六一頁参照。)。

しかしながら、本件において、被告篠原が被告会社西濃の使用人に該当し得ないことは前記認定説示のとおりである。

加えて、被告篠原の本件過失内容は当事者間に争いがないところ、同人の同過失をもつて重過失であるとまで断定することはできない。

蓋し、重過失とは、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解される(大審院大正二年一二月二〇日民録一九輯一〇三七頁、最高裁昭和三二年七月九日第三小法廷判決民集第一一巻第七号一二〇三頁、同五一年三月一九日第二小法廷判決民集第三〇巻第二号一二八頁参照。)ところ、同人の同過失は、その内容からして、未だこの範ちゆうに属するとはいえないとするのが相当だかである。

よつて、原告の右主張は、右説示のいずれよりしても理由がなく採用できない。

(4) 叙上の認定説示から、被告会社西濃は、本件運送契約の債務不履行による損害賠償責任を免れるというべきである。

(二) 結論

原告の被告会社西濃に対する予備的請求は、当事者双方のその余の主張につき判断するまでもなく、同会社の本件帰責事由の存在の点で既に理由がないというべきである。

三  原告の被告高松市場・被告篠原に対する本訴請求(不法行為関係)

1  被告らにおける本件責任原因の存否

被告らの本件責任原因の存在については、当事者間に争いがない。

2  被告らにおける免責事由の存否

(一) 被告らが主張する免責事由は、要するに、原告と被告会社西濃ないし被告会社高松市場・同篠原との間に実質的な契約関係が存在し、したがつて、被告会社高松市場・同篠原の本件不法行為は、同契約関係の債務不履行にも該当し、原告の本件損害賠償請求権は、前者後者につき競合して発生する、このような場合、商法五七八条は同不法行為による損害賠償請求権についても準用もしくは類進適用されるべきところ、本件においては同法条の要件を具備しているので、同法条に基づき、被告会社高松市場・同篠原の本件不法行為責任は免責されるというにある。

そして、右主張の当否が本件争点の一つをなしている。

そこで、以下、右主張の当否につき判断する。

(二)(1) 原告と被告会社西濃間における本件運送契約の成立は、当事者間に争いがなく、同運送契約成立後被告会社高松市場従業員被告篠原が現実に本件商品の運送に当たるまでの経緯は、原告の被告会社西濃に対する本訴主位的請求に関し認定したところであるから、同認定をここに引用する。

(2) 証拠(証人澤永勝行、同中俣三郎、弁論の全趣旨。)によれば、本件運送契約成立後本件商品の右運送経緯に関与加入した各会社は、直接本件商品の運送を依頼しこれを引受けた各会社相互間で、右運送に加入する以前から、運送に関する連絡をして協力し合い、一定の成立した運送契約に関与加入して各会社の運送事業の効率化を図つていたことが認められる。

(3) 右認定各事実を総合すると、被告会社西濃から被告会社高松市場に至るまでの本件運送の形態は、被告会社西濃が原告と締結した本件運送契約に株式会社錦江運輸以下被告会社高松市場までの各運送人が逐次加入したもの、すなわち、第一の運送人である被告会社西濃が荷送人である原告から全区間について本件商品の運送を引受けた後に、第二の運送人である株式会社錦江運輸以下被告会社高松市場までの各運送人が、被告会社西濃から本件運送を引継ぐに当たり、同会社の引受けた全区間の運送契約関係に加入することにより、株式会社錦江運輸以下被告高松市場の各運送人も同じく全区間の運送を引受けたものと認められ、したがつて、これは、相次運送(連帯運送)に該当すると認めるのが相当である。

しかして、右相次運送(連帯運送)においては、原告と被告会社西濃以下被告会社高松市場までの各運送人との関係では単一の運送契約が存在し、同各運送人全員が荷送人である原告と契約関係に立つものと解するのが相当である。

(三)(1) 原告の被告会社高松市場・同篠原に対する本訴請求は、同会社の従業員である同篠原が同会社の事業の執行につきなした不法行為による損害賠償を請求するものであるが、原告と同会社間に存在する前記契約関係からすると、原告には、本件商品の焼失につき、運送人である同会社に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権との競合が認められ、しかも、同不法行為責任については、運送品の取扱上通常予想される事態ではなく契約本来の目的範囲を著しく逸脱した場合に限つてのみ成立すると解すべきものではない。

しかして、商法五七八条による運送人の保護は、運送契約上の債務不履行責任にのみ関するものであつて、運送人の不法行為上の責任は、同法条によつて免れ得ないものと解するのが相当である(大審院大正一五年二月二三日判決民集五巻二号一〇四頁、最高裁昭和三八年一一月五日第三小法廷判決民集第一七巻第一一号一五一〇頁、同昭和四四年一〇月一七日第二小法廷判決判例時報五七五号七一頁参照。)。

したがつて、運送人である被告会社高松市場は勿論、その被用者である被告篠原も、同法条により本件不法行為責任を免れることはできないというべきである。

(2) よつて、被告会社高松市場・同篠原の前記主張は、その余の主張事実について判断するまでもなく、右説示の点で既に理由がない。

3  原告の本件損害の具体的内容

(一) 本件商品が本件事故により焼失したことは、当事者間に争いがない。

(二)(1) 右商品中原告が所有権を有する商品については、同商品の右焼失により、同権利が侵害されたと認められるところ、これに対する現実の損害額は、同商品の同焼失当時における交換価格によつて定まると解するのが相当である。

右説示に反する原告の主張は、理由がない。

そこで、右商品の右焼失時における交換価格について判断する。

(2) 原告は、その主張内容からして、審判の対象としての本件商品中呉服等(別紙目録一記載分)の損害額を総計金四億二三三〇万〇二三〇円と主張しているものと解されるところ、証拠(甲二一、二二の1、2、乙一七ないし一九、原告代表者本人、弁論の全趣旨)によれば、本件商品の内右説示にかかる焼失商品名、数量、交換価格は、次のとおりであることが認められる。

(イ) 呉服関係

(a) 女物式服関係 金四五八九万四〇七〇円

二一二四点 (ただし、原告の主張金額の範囲内)

(b) 女物一般呉服 金二〇四九万九一八〇円

五四一八点

(c) 男物和服 金五〇三万三五四〇円

九六五点

(d) 古着呉服一切 金七七九七万二九四〇円

六二一五点

合計 金一億四九三九万九七三〇円

(ロ) 紳士服関係

(a) 紳士服 金一六九二万九〇二〇円

四六〇五点

(b) 古着洋服一切 金二四二万四四二〇円

一三八一点

合計 金一九三五万三四四〇円

(ハ) 毛皮関係

(a) 毛皮(非課税品) 金八四五万八五〇〇円

二五二点

(b) 毛皮(課税品) 金八四一四万三五〇〇円

五三四点

合計 金九二六〇万二〇〇〇円

総計 金二億六一三五万五一七〇円

しかして、右損害総額金二億六一三五万五一七〇円は、本件事故との間に相当因果関係がある損害、いわゆる通常損害に該当し、原告の前記主張損害額中右認定損害額を超える部分は、右相当因果関係外の損害、いわゆる特別損害に該当すると認めるのが相当である。

しかして、被告らに右特別損害の賠償責任を肯認するためには、同人らにおいて同事故当時同損害の発生に対する予見が可能であつたことを要するというべきところ、本件においては、右予見可能性の存在についての具体的主張・立証がない。

よつて、被告らに右損害部分についての賠償責任を肯認することができない。

(3) 原告は、右認定損害のほかに、焼失備品合計金四五四万一〇〇〇円、代替品等合計金七五三万六〇〇〇円(別紙目録二記載のとおり。)、緊急仕入のための増加金額金二〇四八万一七五〇円、緊急仕立代金合計金二四万七三七〇円、緊急借入金利(別紙目録三記載のとおり。)合計金三五〇万六三四一円をも本件事故による損害と主張している。

しかしながら、右主張損害中焼失備品については、その損害額を確定し得る的確な証拠がないし、その余の損害については、その主張内容からみて、いずれも本件事故との間に相当因果関係がある損害とは認め得ず、いわゆる特別損害に該当するというべきである。

したがつて、被告らに右特別損害についての賠償責任を肯認するためには、前記呉服等の特別損害について説示したところがそのまま妥当するというべきである。

しかるに、本件においては、右特別損害についても、右呉服等の特別損害と同じく、右説示にかかる予見可能性の存在についての具体的主張・立証がない。

よつて、右特別損害についても、右呉服等の特別損害と同じく、被告らに賠償責任を肯認することができない。

4  過失相殺の成否

(一)(1) 本件商品が高価品であること、原告が被告会社西濃に対し同商品につき同高価品の明告をしなかつたことは、前記認定のとおりである。

(2)(イ) 証拠(被告篠原本人、弁論の全趣旨。)によれば、被告篠原は、被告会社西濃錦糸町支店においても、松阪屋上野店においても、関係者から本件商品の内容について告知されていないこと、ただ、被告篠原は、同上野店において被告車に同商品を積み込むに際し、同商品はバーゲン品かなと想像し、同行した前記岩瀬運輸従業員と同旨の会話を交わしたこと、被告篠原は、本件事故後初めて原告の同商品に関する請求金額を聞き、余りの高額に驚愕してしまつたことが認められる。

(ロ) 右認定各事実に基づくと、被告篠原が本件事故以前に本件商品の前記内容及び価格を知つていたならば、同人は、本件運送中における被告車の運転につき、より慎重な配慮をしたであろうことが推認される。

(ハ) 右認定に基づくと、原告が、本件運送契約の成立前から被告会社西濃が原告より本件商品の引渡を受けるまでの間、同会社に対し、同商品が高価品である旨の明告をすることによつて、被告会社西濃、ひいては被告会社高松市場ないしその被用者である被告篠原をして特別の注意を払つて同商品の運送に当たらせ、それによつて本件損害の発生を防止し得たと認めるのが相当である。

したがつて、原告が右高価品の明告をしなかつたことも、本件損害の発生に寄与しているというべきであるから、この点は、不法行為法上、被害者である原告の過失と認めるのが相当である。

(3)(イ) そうすると、原告の右過失は、原告の本件損害額の算定に当たり斟酌するのが相当であるところ、同斟酌する原告の過失割合は、被告篠原の本件過失と対比して、全体に対し五〇パーセントと認めるのが相当である。

(ロ) そこで、原告の前記認定にかかる本件損害額金二億六一三五万五一七〇円を右過失割合で、いわゆる過失相殺すると、その後に、原告が被告会社高松市場・同篠原に請求し得る本件損害は、金一億三〇六七万七五八五円となる。

(二) 被告らは、原告が本件商品の運送につき相当額の損害保険契約を締結しなかつたことをもつて、原告の過失である旨主張している。

証拠(乙一七、証人松本雅典。)によれば、原告は、本件商品の運送につき相当額の損害保険契約を締結していなかつたことが認められる。

しかしながら、保険は事故発生後の損害填補手段であつて、損害の発生拡大とは無関係であるから、原告が右保険契約を締結しなかつたからといつて、これをもつて原告の過失とすることはできない。

よつて、被告らの右主張は、理由がなく採用できない。

5  結論

叙上の認定説示に基づくと、原告は、被告会社高松市場・同篠原に対し、各自本件損害金一億三〇六七万七五八五円及びこれに対する本件事故発生の日であることが当事者間に争いがない昭和六〇年五月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべく求める権利を有するというべきである。

第四全体の結論

以上の次第で、原告の被告会社西濃に対する本訴主位的・予備的請求は、いずれも理由がないから、これらを全て棄却し、原告の被告会社高松市場・同篠原に対する本訴各請求は、前記認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれらを認容し、その余は理由がないから、これらを棄却する。

(裁判官 鳥飼英助 安浪亮介 亀井宏壽)

事故目録

一 日時 昭和六〇年五月二九日午前一時一〇分頃

二 場所 岐阜県大垣市今福町地内名神高速道路下り線三七三・一kp付近

三 加害(被告)車 被告篠原運転の大型貨物自動車

四 被害(筒居)車 筒居善正運転の普通乗用自動車

五 事故の態様 被告車が、本件事故現場付近を時速約一〇〇キロメートルで走行中、同車両の前方を進行していた筒居車に追突し、被告車が、中央分離帯を越え、同場所で横転して炎上した。

以上

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